音楽鑑賞の記録

ほぼクラシックのcd鑑賞記録です。

オペラ ベッリーニ:ノルマ カルロ・リッツィ/メトロポリタン歌劇場管弦楽団(2017年)

WOWOW放送 2017年10月7日ライブ(2018年12月22日放送)

歌劇『ノルマ』ベッリーニ作曲 約200分(幕間解説等含む)

■出演:
ノルマ:ソンドラ・ラドヴァノフスキー
アダルジーザ:ジョイス・ディドナート
ポッリオーネ:ジョセフ・カレーヤ
オロヴェーゾ:マシュー・ローズ
​■管弦楽メトロポリタン歌劇場管弦楽団
​■指 揮:カルロ・リッツィ
■収録:2017年10月7日 メトロポリタン歌劇場

演出:デイヴィッド・マクヴィカー


ノルマというとマリア・カラスのイメージだがほとんどカラスを聴いたことがない自分には、今回がノルマの初視聴。

「清らかな女神よ」が有名だが意外と重唱や合唱も多く聴きどころが多い。一方で音楽の展開は割りと一本調子だなとも感じた。また、聴きどころのハイライトでは器楽演奏が中断し、歌手の声に集中して聴いてね、というシーンがかなり多い。

ラドヴァノフスキーとディドナートの二重唱が1幕でも2幕でも素晴らしく、二人の声質もマッチしていて、こんなにきれいに決まったハーモニーが聴けるものかと感嘆した。

他のキャストやリッツィも全体を通して安定していて聴いていて安心だった。

演出のマクヴィカーは原作へのリスペクトが強く、ドラマへの理解を大いに助けてくれるのでこれも安心。今回は森やオークの木を視覚の中心に置いて、ドルイドを始めとするケルト民族とローマとの関係が話の根底にあることが分かりやすく表現されていた。

 

 

 

 

佐野元春 SWEET16 30th Anniversary Edition(2023年)

MHCL-2984(Sony Music

6CD+Blu-ray Disc+ポスターで、大きい・重い・高額と、超弩級の記念盤。

当時、30年後にこんな買い直しをするなんて思いもしなかっただろう。

とにかくパッケージが大きい。サイズはおよそ304mm×234mm×47mmだった。

自分にとって、Sweet16とThe Circleが佐野元春さんのキャリアハイだ。この時期の佐野さんは自分の表現したいことを余すことなく形にできる能力や環境下にあったように思う。

その後、どうしても思いどおりの声が出ない喉になってしまったようで、歌うのも辛そうで裏声を多用するようになってしまった。

まだ最初の1枚を聴いただけでブックレットすら目を通していないのだが、このリマスター盤がいきなり最高の出来で驚いた。

30代なかばの佐野さんの声は張りがあってクリアだ。しかし驚異なのはそのリマスタリング

特にボヘミアン・グレイブヤード~ハッピーエンドはこんなに素晴らしい曲だったのかと、思わず涙が出てしまった。

当時はしがない中古車のカーステレオやありふれたミニコンポで聴いており、現在はそこそこの再生環境下で聴いたせいもあるかとも思い、つい1992年リリース当時のCDと聴き比べてしまったが、楽器も声も明瞭度が図抜けていて、世界が広がっている。

リマスターを担当したRandy Merrillさんには拍手喝采を送りたい。この勢いでThe Circleや約束の橋などのリマスターもぜひお願いしたい。

それだけに肝心の紙ジャケ裏面のクレジットでリマスター担当者名を誤表記してしまっているのが情けないというか悲しすぎる。

御祝儀ものの記念盤で、しかも重要な箇所でこんなミスをするなんてあきれてしまう。

それでもセットの残りは手つかずの現時点で、購入して本当に良かったとも思えるこのリマスター盤。これ1枚だけでもシングルカットならぬアルバムカットしてリリースしても良いと思う。本セットはちょっと高額すぎて、かつ保管にも面倒だ。

しかし、買わない理由が価格だけなら、買って後悔はしない…はず。

 

ブルックナー 交響曲第5番  ルドルフ・ケンペ/ ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(1975年)

ATKSA1001(Altus X TOWER RECORDS)1975年5月25-27日 セッション録音

ケンペのブルックナー交響曲第5番、abruckner.comによれば1878 Version Ed. Leopold Nowak。

2020年リマスターによるSACDで21:04/17:15/12:44/24:20。この約半年後に録音する第4番同様のミュンヘンのビュルガーブロイケラーでの録音。音響が良く音に濁りがない。

この曲は自分の好きな曲なので聴く機会が多い。この演奏は非常に丁寧でクリアに聴けて良いのだが、一方で何かもう一つ足りない感がある。

その分、この曲に触れる機会が初期の段階であれば、いっそう良い印象が植え付けられそう。

 

 

 

 

オペラ ヴェルディ:ドン・カルロス アントニオ・パッパーノ/パリ管弦楽団(1996年)

9784094803334(小学館)1996年3月 ライブ録音

歌劇『ドン・カルロス』フランス語5幕版

ヴェルディ 作曲 

211分 【5.0サラウンド】
■出演:
ドン・カルロス:ロベルト・アラーニャ
ロドリーグ:トーマス・ハンプソン
エリザベート・ド・ヴァロワ:カリタ・マッティラ
フィリップ2世:ホセ・ファン・ダム
エボリ公女:ヴァルトラウト・マイアー

​​■管弦楽:パリ管弦楽団
​■指 揮:アントニオ・パッパーノ
■収録:1996年3月 パリ シャトレ座

演出:リュック・ボンディ
美術:コル・アユロー
衣装:モアデル・ビッケル

小学館からリリースされていた、しっかりした装丁の解説本が特徴のDVD、魅惑のオペラシリーズの一つ。映像作品自体は現在ワーナーミュージックからリリースされているものと同じ。

現在でもイタリア語4幕版が主流かもしれないが、この1996年シャトレ座版は1867年初演のフランス語5幕版を元にバレエをカットしたもので、その後のフランス語上演再燃の嚆矢となったものらしい。

開始早々のフォンテンブロー!からアラーニャの声が光り輝く。主役級5人どの配役も錚々たる顔ぶれで皆素晴らしい。中でもマッティラは現在の貫禄ある趣からは想像できないくらいのすっきりした立ち振舞で気高く誠実なキャラと歌唱を披露してこれぞエリザベート

合唱やアリアも豊富だが、様々な重唱もあって飽きるところがない。低音好きな自分には貴重なバス二重唱まである。ヴェルディが到達した頂点の作品の一つだと思う。

演出は黒の衣装に横からの光による影を多用して地味とも言えるが、うるさく感じることもなくかえって歌唱にフォーカスが当たる効果があった。

解説本も丁寧な作りで、歴史や絵などとっつきやすい趣向で紹介されている。惜しむらくは対訳で、かなりの量が付されているのでここまでやるなら全訳にしてほしかった。

 





 

 

 

 

 

ブルックナー 交響曲第4番  ルドルフ・ケンペ/ ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(1976年)

ATKSA1001(Altus X TOWER RECORDS)1976年1月18-21日 セッション録音

ケンペは1976年5月12日、65歳で亡くなっており、この録音は恐らく正規商業録音の最後に当たる。

この演奏は以前にサブスク配信で聴いたことがあったがそのときは特に印象に残らなかった。

しかし、この2020年リマスターによるAltusのSACDの音質が良いというのをちらほら見かけていたので入手したもの。19:30/14:29/10:18/20:49。abruckner.comによれば1878/80 Version (1880 with Bruckner's 1886 revisions) - Ed. Leopold Nowak [1953]。

録音場所はミュンヘンのビュルガーブロイケラーという旧ビアホール、倉庫。ここはヒトラーによるミュンヘン一揆の発生場所でもあるという。1979年にこのホールは解体されたとのことで、このホール自体も最晩年の録音となるだろう。

演奏はとても解像度が高く丁寧な演奏で非常に聴きやすい。レンジがそれほど大きくなく、金管などで精度が一部落ちるところもあるがスタンダードな名盤と言われてきたことが納得できる。ケンペの早逝が惜しまれる。

ライナーノーツに、年代など一部平凡な誤植がある。

ベートーヴェン  ピアノ協奏曲 第5番&チャイコフスキー マンフレッド交響曲 イム・ユンチャン&ミハイル・プレトニョフ/東京フィルハーモニー交響楽団(2023年)

2023年2月22日コンサート・ライブ 東京オペラシティ コンサートホール

チャイコフスキーは名曲揃いなのでいまいち知名度の低いマンフレッド交響曲だが、個人的にはかなり好きな曲。実演の機会もそう多くないうえ、プレトニョフの実演も今まで聴く機会がなかったので楽しみにしていた。

ベートーヴェンでは、2022年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで史上最年少優勝の肩書を持つイム・ユンチャンによるピアノ。ユンチャンはとにかく若い。細い。

東京フィルの弦の印象も合わさり全体に線の細い演奏だが、その分弱音や繊細な表現が緻密で、技巧も素晴らしい。この先が楽しみ。アンコールはJ.S.バッハの主よ人の望みの喜びよ(マイラ・ヘス編曲)。

チャイコフスキーではプレトニョフの素晴らしさが堪能できた。総休止の後の出だしや弱音の繊細さ、緩急の付け方など、オケの統率がしっかりしていて、視線は別の方向でも、指先一つで各パートが反応していくさまを見ているだけでも面白い。マンフレッドでは各パートに活躍の場面がちりばめられているので楽しい。金管木管も明瞭に聴こえて、特にファゴットが良かった。

オルガンは石丸由佳さん。この曲では最後に美味しいところをさらうオルガンだが、たしかに超印象的場面を描いてくれた。

やはりマンフレッド交響曲は名曲。

 

 

 

 

 

ブルックナー 交響曲第7番 ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団(1999年)

BVCC-34148(BMG)1999年11月19-21日 ライブ録音

この年に続いたヴァントのブルックナー第7番演奏、最後はベルリン・フィルとの客演ライブ録音。abruckner.comによれば1885 Original Version. Ed. Robert Haas [1944]。20:53/21:53/10:25/13:11。

ハイブリッドsacdで、sacd層は5.1マルチとステレオを収めておりsacdステレオを聴いた。

弱音も低音も聴き取りやすく、円熟のヴァントと貫禄のベルリン・フィルによる貴重な名演だ。特に金管は凄腕(凄肺)。

一方でテンポや強弱などこれまでのヴァントらしさが表現されているとは感じられるものの、各パート内のまとまりや、パート間の統一性には若干の甘さも感じられた。

これはやはり完全に掌握しきったNDR響と、客演経験の浅いベルリン・フィルで差が出たものか。なまじ隣接して同曲異演録音があるので、わずかながらも惜しいと感じてしまうのは贅沢か…。

しかし元々、7番のラストはなんとなくあっさりと終わって、物足りない感を持っていたのだが、この演奏は重厚さ荘厳さが加わって満腹感あるものだった。