音楽鑑賞の記録

ほぼクラシックのcd鑑賞記録です。

オペラ ドニゼッティ:ロベルト・デヴェリュー マウリツィオ・ベニーニ/メトロポリタン歌劇場管弦楽団(2016年)

WOWOW放送 2016年4月16日ライブ(2018年12月3日放送)

歌劇『ロベルト・デヴェリュー』ドニゼッティ作曲 約183分(幕間解説等含む)

■出演:
エリザベス1世(エリザベッタ):ソンドラ・ラドヴァノフスキー
ロベルト・デヴェリュー:マシュー・ポレンザーニ
ノッティンガム公爵夫人(サラ):エリーナ・ガランチャ
ノッティンガム公爵:マリウシュ・クヴィエチェン
​■管弦楽メトロポリタン歌劇場管弦楽団
​■指 揮:マウリツィオ・ベニーニ
■収録:2016年4月16日 メトロポリタン歌劇場

演出:デイヴィッド・マクヴィカー


ドニゼッティチューダー朝三部作の最後という紹介でwowowの放送は始まる。一般には女王三部作とも言うようだ。が、最初の二作、《アンナ・ボレーナ》《マリア・ストゥアルダ》ともに聴いたことがなく、本題作も初視聴。

史実の知識もなかったが、wowow放送内のプロローグでおよそをつかむことができ、安心のマクヴィカー演出+メトということで視覚的には全く問題なく、英国中世の雰囲気を感じることができた。

主要キャラ4人は皆素晴らしかったが特に女性二人が抜きん出てよかった。ラドヴァノフスキーは声量豊かでベルカントを余裕でこなしながら、女王の孤独感がひしひしと感じられた。

ガランチャは声量は大きくないものの、普段のメゾソプラノとは違う歌唱でもこれまた余裕でこなし、その所作も相まって文句のつけようもない。

指揮のベニーニはほとんど知らないのだが、そもそも自分には初観劇の本作なので、うまくまとめていたという印象。

 

ベートーヴェン  歌劇フィデリオ アントニオ・パッパーノ/コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団(2020年)

NHKBSプレミアム放送(2021年11月14日) 2020年3月6,9日ライブ

歌劇『フィデリオ』全曲 138分
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲

 

 ■出演:

レオノーレ: リーゼ・ダヴィドセン
フロレスタン: ヨナス・カウフマン
ロッコ: ゲオルク・ツェッペンフェルト
ドン・ピツァロ: サイモン・ニール
マルツェリーネ:アマンダ・フォーサイス

管弦楽:英国ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団(コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団)
■合唱:英国ロイヤル・オペラ合唱団
■指揮:アントニオ・パッパーノ

■収録:2020年3月6,9日 英国ロイヤル・オペラ・ハウス

演出:トビアス・クラッツァー

かなり久しぶりのフィデリオ観劇。コロナ蔓延直前の公演で、その後Opus Arteからメディア商品化(OABD7288D他)されたがそちらの収録日は3月13日でNHK放送とは異なり、フロレスタンが代役となっている。

パッパーノの演奏は序曲からノーブルさを感じさせ、かつスノッブではない。レオノーレ含め、序曲はクレンペラーベームなどをよく聴いていたので、パッパーノは颯爽として軽やかに流れていく。

歌手陣は皆素晴らしく、ダヴィドセンは大柄な体格も相まってレオノーレにぴったりだ。ツェッペンフェルト、フォーサイスの脇役もしっかりしているので劇の締まりが良い。

登場が遅く影が薄くなりがちなフロレスタンだが、カウフマンはその第一声から渾身の一撃を聴かせてくれた。

演出は舞台はフランス革命時期に置き換えられるも全体にオーソドックスと思っていたが…。1幕からステージが白い縁どりで覆われどことなく画面上の出来事のように見られ、2幕になると現代服の集団が現れ、フェルナンドも現代服で登場。最後には皆が白い縁どりから出てきて女性讃歌で締める。女性の地位向上の歴史を現代から振り返って見ているという視点なのか…時代に取り残されたヤキーノだったのか…よく分からない。

テキストにかなり改変を加え、ストーリー展開としては肉付けがされマルツェリーネにも落とし所を作って意欲的な制作だったがこれは賛否両論だろう。特にフィデリオ初観劇には向かない公演だ。演奏、歌手が凄まじく良いだけにもったいない。

 

スティーヴン・シュワルツ ウィキッド(2024年)

2024年1月8日マチネライブ  JR東日本四季劇場[秋]

元々オズの魔法使いを読んだことがなかったので初演じはスルーした演目だったが好評のようだったので今回の再演を初観劇。チケットを取るのにかなり苦労した。

ボームの原作を読み、1939年の映画を観て元の話は掴んだ。しかし原作のアナザーストーリーと言われる本作の話はほぼ前知識なしで臨んだ。

女性ダブル主人公の友情というメインストーリーはなかなか珍しいように思う。そして原作を知っているとかなり衝撃的な展開。ウィキッドを知ってしまうと、オズの原作はもうそのまま受け入れられなくなってしまう。

女性主人公二人とネッサの歌唱が安定して素晴らしかった。一方でフィエロ役が限界いっぱいの様子で、デュエットとなると差が顕著となってしまい気の毒なくらいだった。オズ役もその役柄のせいか(原作ではただの能無しだったが今作ではかなり悪辣)、歌唱でも小物感だけが残った。

曲はグリンダ、エルファバ共に名ナンバーもあってライブでの聴かせどころは多かったとは思うものの、それほどずっとあとまで心に残るフレーズはなかった。何度か聴くと違ってくるのかもしれない。

演出もそれほど凝ったものはなくオーソドックスな印象。

 

 

オペラ ヴェルディ:アッティラ リッカルド・ムーティ/スカラ座管弦楽団(1991年)

OALS3000BD(Opus Arte) 1991年ライブ

歌劇『アッティラ』全曲 118分
ジュゼッペ・ヴェルディ作曲

 

 ■出演:

アッティラフン族の王): サミュエル・レイミー
エツィオ(ローマの将軍): ジョルジョ・ザンカナーロ
オダベッラ(アクイレイアの領主の娘、フォレストの恋人); チェリル・ステューダー
フォレスト(アクイレイアの騎士、オダベッラの恋人): カルディ・カルドフ

管弦楽ミラノ・スカラ座管弦楽団
■合唱:ミラノ・スカラ座合唱団
■指揮:リッカルド・ムーティ

■収録:1991年 ミラノ・スカラ座

演出:ジェローム・サヴァリー

2025年のウィーンフィルニューイヤーコンサートの指揮者がムーティと聞いて、また彼の演奏を聴きたくなった。

このDVDはスカラ座コレクションとしてセット販売されたもので、単品販売もある。輸入ものなので字幕は英語のみ。冊子に言語歌詞の記載がある。しかし、現在は対訳を頑張ってくれているサイトもあり、googleレンズなどのおかげで日本語なしでもあまり困らない。


ムーティは90年代のスカラ座のイメージが強い。今も颯爽とした演奏をするが、この頃の切れ味は凄まじい。とにかくキレキレだ。


歌手陣はレイミー、ステューダーと超一流が堂々としており、鮮明に聴かせる。更に重唱ではオケも煽って圧倒的な迫力。

演出は演奏当時らしく、奇抜さのない原作リスペクトの分かりやすさ。以前に2018年のスカラ座シャイー版を視聴した際のリーヴェルモル演出は20世紀に時代を置き換えたもので、それほど違和感もなく好演だったが、やはり本来の読み替えなしのほうが説得力は強い。

映像の古さは致し方ないところだが、中後期の圧倒的名作に押されがちなヴェルディ初期作品がムーティスカラ座により素晴らしい相乗効果で完成度の高いものとなった。

オペラ チャイコフスキー:スペードの女王 マリス・ヤンソンス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2022年)

NHKBSプレミアム放送(2018年11月11日) 2018年8月2,10,13日ライブ

ザルツブルク音楽祭2018
歌劇『スペードの女王』全曲 183分
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲

 

 ■出演:

士官ゲルマン:ブランドン・ジョヴァノヴィチ(テノール

トムスキー伯爵/プルートス役:ウラジスラフ・スリムスキー(バリトン

エレツキー公爵:イーゴリ・ゴロヴァテンコ(バリトン

リーザ:エフゲニア・ムラヴィエワ(ソプラノ)

ポリーナ:オクサナ・ヴォルコワ(メゾソプラノ

伯爵夫人:ハンナ・シュヴァルツ(メゾソプラノ

管弦楽ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
■合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団(合唱指揮:エルンスト・ラッフェルスベルガー)
■指揮:マリス・ヤンソンス

■収録:2018年8月2,10,13日 ザルツブルク祝祭大劇場

演出:ハンス・ノイエンフェルス
装置:クリスティアン・シュミット
衣装:ラインハルト・フォン・デア・タンネン
照明:ステファン・ボリガー
映像:ニコラス・フンベルト、マルティン・オッター
収録監督:ティツィアーノマンチーニ

 

元日は毎年視聴しているNHKウィーンフィルニューイヤーコンサート。今年は地震で生放送が飛んでしまった。再放送もあるし自分と相性の良くないティーレマンなのでそれほど気にしなかったが、空けていた時間には膨大な録画ストックからオペラ鑑賞に割り当てた。

今になって思えばヤンソンスの亡くなるおよそ1年前となるこの演奏、オペラを振っている印象がほとんどないヤンソンスだがウィーンフィルとの相性も良く、素晴らしい管弦楽だった。

自宅環境のせいかオケと歌唱のバランスが若干悪く、オケの弱音を拾えていない部分があったのが少し残念だった。

主要キャラの歌唱陣は皆安定していて聴きやすい。といってもロシア語は全然聴いても分からないのだが。

ジョヴァノヴィチとムラヴィエワはとてもキャラクターが鮮明で素晴らしかった。

ロシアオペラと言えば、合唱重視というイメージが強い。このオペラでも活躍場面が多いが、謎の衣装と謎のコレオグラフは意味がよく分からない。余計な動作のおかげであまりまとまりのない印象が残った。

演出は前衛的として著名なノイエンフェルス、この人は2022年にコロナで亡くなっているのか…相当身構えたが主要人物や全体の雰囲気はむしろオーソドックスなイメージで歌手も歌いにくそうな場面や動作もあまりなく良かった。合唱陣の扱いと女帝は意味不明だったが。

取り上げられる機会の少ない作品だけに、ヤンソンスウィーンフィルが名演を残してくれたことが本当にありがたい。

 

オペラ ヴェルディ:エルナーニ ジェイムズ・コンロン/フィレンツェ五月祭管弦楽団(2022年)

NHKBS4K放送(2023年10月8日) 2022年11月10日ライブ

歌劇『エルナーニ』全曲 137分
ジュゼッペ・ヴェルディ作曲

■出演:
エルナーニ:フランチェスコ・メーリ(テノール
エルヴィーラ:マリア・ホセ・シーリ(ソプラノ)
ドン・カルロ:ロベルト・フロンターリ(バリトン
ドン・ルイ・ゴメス・デ・シルヴァ:ヴィタリー・コワリョフ(バス)
管弦楽フィレンツェ五月祭管弦楽団&合唱団(合唱指揮:ロレンツォ・フラティーニ)
■指 揮:ジェイムズ・コンロン

■収録:2022年11月10日 フィレンツェ五月音楽祭歌劇場(イタリア)

演出:レオ・ムスカート
美術:フェデリーカ・パロリーニ
衣装:シルヴィア・アイモニーノ
照明:アレッサンドロ・ヴェラッツィ
映像監督:マッテーオ・リケッティ

ヴェルディにとって5作目となる初期のオペラで、これまで聴く機会がなかったがNHK放送で初鑑賞。ブルーレイ(NYDX50316)商品化もされている。

脚本はこのあと長くコンビを組むことになるピアーヴェとの初タッグ。音楽自体はいかにもヴェルディという展開とらしさが若書きながら既に全開。

このタイトルの初鑑賞なので展開が分からず内容に追いつくのが一義的になってしまった。

しかし鑑賞慣れしていない身にとっては今回の上演は非常に良かった。演出は抑えめで衣装は違和感なく、演奏も歌唱も上品でそつがない印象。

変な印象が残らず今後エルナーニに触れることができそう。

 

シベリウス 交響曲第2番&第5番 クラウス・マケラ/オスロ・フィルハーモニー管弦楽団(2023年)

2023年10月24日コンサート・ライブ サントリーホール

マケラの来日公演、シベリウスのプログラムは2回だけ。24日の演奏会に行った。

シベリウスは一般に冷たく影のあるイメージが定番とされるように感じるが、2番と5番はそれほどでもない曲想も相まって、若いマケラから繰り出される演奏は清冽で朗らか。
解釈は奇をてらわず、オーソドックスと言って良いアプローチ。
変なことをしないのは良いことだ。

マケラ自身は終始笑みを絶やさず、余裕を感じさせる。
若干27歳にしてこの統率力、団員から受けるリスペクトは素晴らしい。

肝心のオケは、お世辞にも綺麗な音とは言えず、アンサンブルも悪い言い方をすれば荒い、また雑だ。しかしマケラはマスゲームの彫琢を目指すのではなく、それでありながら一団を一つのベクトルに向かわせる。
個々はそれぞれのベストの演奏をやり切る。
そこから生じる音楽は間違いなく名演だった。

事前にリリースされていたデッカの音源を聴いたときは、正直なところ可もなく不可もなくという感想だったが、ライブでこれほど感動できたのは嬉しい体験だった。

アンコールはレンミンカイネンの帰郷。こちらも颯爽として、もはやレンミンカイネンの疾走である。面白い。